米韓同盟解消への懸念

南北首脳会談後の記者会見で、金大中大統領は在韓米軍を「国連平和維持軍」に替える構想を金正日総書記に伝えた、と明らかにした。アメリカのワシントンでは、この金大中大統領の発言に、国防関係者らが驚愕した。それは「米韓同盟の解消」を意味するからであった。

「国連平和維持軍」への変更は、アメリカに「中立」であることを要求する。これは、同盟解消以外の何物でもない。また、アメリカ軍は「平和維持軍」のために訓練され、海外に派遣されているわけではない。あくまでも、地域防衛とアメリカの世界戦略のために存在しているのである。

南北首脳会談の前後に、アメリカはオルブライト国務長官を含め、多くの高官を韓国に派遣した。金大中大統領が、在韓米軍撤退の取引に応じるのではないか、と恐れたのである。在韓米軍の撤退は、米韓同盟の解消につながりかねない問題であるからだ。

南北首脳会談が残した歴史的課題は「米韓同盟は維持できるのか」という問題であった。韓国内には、朝鮮半島地政学的位置や過去の中国との関係から。在韓米軍永久駐留を主張する声も聞かれるが、多数意見ではない。北朝鮮の公式の主張は、一貫して在韓米軍の撤退であった。

この北朝鮮の在韓米軍撤退要求の目的は、在韓米軍が撤退すれば北朝鮮としては韓国内で革命の気運を高め必要ならば軍事介入できるからである、と解釈されてきた。

それもあるだろうが、北朝鮮の理論からすれば外国の軍隊が駐留する国家は「独立国家」ではない。この点は、北朝鮮が韓国に対し国家としての「正統性」と「倫理的優越」を主張できる最大の根拠なのである。

韓国内での反米と在韓米軍撤退運動の高まりは、アメリカを不安にさせた。インターネットのホームページに、反米や在韓米軍撤退運動を掲げるものが急増した。南北首脳会談後の韓国の変化に、アメリカは金正日総書記の対南工作が成功したのではないか、との危惧を募らせたのであった。

金大中大統領はアメリカの冷たい対応に気付いたのか、その後は言葉を変えた。アメリカのワシントン・ポスト紙との会見(二〇〇〇年八月三〇日)で「金正日総書記も、在韓米軍の継続駐留に同意した」と明らかにした。

これは、アメリカの懸念に配慮した発言修正であろう。後で説明するが、北朝鮮が「在韓米軍は統一の過渡期においては駐留してもいい」「韓国が締結したすべての条約は遵守する」などの立場を一九九〇年頃からアメリカに伝えてきたのも事実である。だが、アメリカはこの政策の真意を測りかねていた。

首脳会談後の南北朝鮮は、北朝鮮が「米韓同盟の解消」を狙い、韓国は「北朝鮮自由民主主義化」を意図する目に見えない戦いを展開しているのである。