格下げされた日本の国債

ではなぜ、日本の財政はここまで悪化したのだろうか。日本経済は、80年代後半から90年代初頭にかけてのバブルが崩壊し、長期の低迷に入った。低迷した景気を浮揚させるため、政府は92年8月を皮切りに99年11月に至るまで9次にわたって大型の総合経済対策を実施した。

この9回の経済対策の事業規模を単純に合計すると。10兆円にも上る。このうち、GDP増大に寄与する、国と地方自治体の財政支出である「真水」は、減税分を含めて、事業規模の約半分の60兆円程度と推計されている。その大部分が公共事業や施設整備などの公共投資とみられる。

だが、そのための財源は建設国債、つまり借金に求めざるを得なかった。こうして、年度途中の補正予算で、ほぼ毎年度、巨額の建設国債を発行し続けたのである。また、経済の低迷で税収が伸びず、その一方で歳出は膨らんだため、毎年度の当初予算でも赤字国債を発行し、さらに、税収が予想より伸び悩んだ結果、補正予算でも赤字国債を増発せざるを得なかった。

当初予算ペースの一般会計歳出は90年度の66兆2368億円から、2000年度には84兆9871億円へと、19兆円弱も増えた。一方、税収は90年度決算ペースの60兆1059億円をピークに、2000年度は当初予算ペースで48兆6590億円と、約11兆5000億円も減少したのである。こうして、借金が積み上がったのである。

この財政悪化に対しては、海外から警告が届いた。米国の有力格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが98年11月16日、日本政府が発行する国債と外貨建て債の格付けを最上級の「Aaa」からランク下げて「Aa1」にすると発表したのである。

国家の総合的な経済力そのものに疑問符が付いたわけだ。格付け引き下げの理由は、政府債務の増大、金融システムの弱体化、年金債務の増大などである。しかも、この影響は経済界にも波及した。国債と同じく最上級だったNTT、東京電力関西電力中部電力の優良企業の外貨建て債も、「Aa1」へと引き下げられたのだ。

2000年9月8日、ムーディーズ国債の格付けを「Aa2」へとさらにランク引き下げた。しかも、それ以後の見通しも「ネガティブ(弱含み)」としたままだった。では、国の借金が増えれば、どうなるのか。

まず、借金を返済するために、将来に大増税が予想される。国民は増税に備えて貯蓄を増やし、そのため、不振を続ける個人消費がますます低迷する恐れが強い。そして、実際に増税が実施されれば、強烈なデフレ要因となる。九七年四月からの、三%から五%への消費税率引き上げが「戦後最悪の不況」につながった事実を思い起こせばよい。

また、大量の国債が債券市場に新たに出回るため、需給バランスが崩れて、既発の長期国債の価格が下落、つまり市場金利が上昇する。実際、一時的だが、ムーディーズ国債格付け引き下げ直後、長期金利が上昇した。

長期金利が上昇すれば、企業が発行する社債金利なども上昇せざるを得ず、企業の設備投資を冷やす要因となる。さらに長期金利が高騰すれば、日銀の政策的裁量で操作できるはずの短期市場金利にも波及してくるだろう。

大蔵省は債券市場で主流の10年物国債に加えて、今後は5年物国債も柱にする方針だ。商品を多様化することで、国債をスムーズに消化させ、金利上昇を防ぐ構えである。確かに、一時的には効果はあろうが、このような小手先の方法では限界がある。

現在は国内貯蓄で賄えるため、財政赤字が対外債務にはつなかっていない。しかし、毎年度30兆円程度の国債を発行し続ければ、やがては海外からの資金流入が必要になってくるだろう。

99年末には約85兆円の対外純債権があるが、いったん海外資金に頼り始めれば、あっという間に食いつぶされ、純債務国に転落する恐れがある。