遺族集う法廷で謝罪と否認 「私には異論がございます」

運転士1人を含め、107人が死亡した惨事の責任の所在は明らかになるのか。JR宝塚線福知山線脱線事故で、初の刑事裁判が神戸地裁で始まった。おわびの言葉を語りながらも個人の罪を否定するJR西日本の前社長。遺族や負傷者の悲しみや怒りは今も消えず、約40人が傍聴して、その姿を見つめた。

山崎正夫前社長(67)は午前10時に法廷に姿を現し、傍聴席に一礼して入廷した。起訴状の朗読時は弁護人の前の長いすに座り、口を結んで聴き入った。106人が死亡した場面になると、大きくつばをのみ込んだ。時折、大きく肩で息を吸い、眉をひそめた。

岡田信裁判長から「間違いはありますか」と意見を問われると、山崎前社長ははっきりした口調で「私には異論がございます」と語った。スーツの右ポケットから紙を取り出すと、傍聴席に向き返って深く一礼し、続いて検察官側にも頭を下げて約10分間かけて読み上げた。

「106名もの尊い命を奪い、多くのお客様に大変なけがを負わせてしまいました。いかに無念だったか。ただただ深くおわび申し上げるほかありません」と述べた。しかし、「あえてATS(自動列車停止装置)を設置しなかったとの指摘については、非常なるショックを覚えている。何としても潔白を明らかにしたい。『努力なくして安全なし』をモットーに幅広く安全推進の取り組みをしてきた」と訴えた。

無罪を主張した山崎前社長は嘱託社員として、JR西日本本社ビルの一室に毎朝出勤している。事務机と応接セット、裁判関係の資料が収められた本棚があるだけの1人だけの空間。弁護士からの問い合わせの電話を受けたり、裁判で使う資料をまとめたりして過ごしている。