フィランソロピーと税制

とくに高度大衆消費社会においては、「より便利で質の高いもの」を求める消費者の欲求の高度化は避けることのできない傾向として各企業に戦略の変更を迫っています。高付加価値商品や高度のサービスが求められ、さらにメディアやコピーが普及してデザインなどの複製と大量普及が可能となりますから色彩、形状、印象、映像などの多様な要素が企業のイメージに影響するようになり、今日では「環境に優しい製品をつくっているかどうか」や「消費者の文化的な生活に理解を示しているかどうか」までが企業評価の項目に入ってきています。このような状況のもとで私企業が文化戦略を構想するのは当然であると言えるでしょう。

いま一つは「本来的な企業文化」というべきものであって、芸術文化の創造や普及に対する純粋な保護者=パトロネイジや、直接的な営利目的を度外視した奉仕または社会的貢献(慈善事業=フィランソロピー)です。ここには、社会事業に参加することによって、私企業が社会的な責任を国民に対して果そうという位置づけがあると言えるでしょう。もちろん、フィランソロピーといえども、長い目でみれば私企業への信頼感やステイタスを高めて、それらが利潤極大化や市場占拠率の拡大にとってプラスであるかもしれません。

しかし、フィランソロピーの利潤への貢献は、直接的な効果ではなく、なによりも芸術文化の創造と享受能力の向上を支援し、それによって、公益に貢献すると評価しうるならば、これを第一の位置づけから明瞭に区別することは有益なことでしょう。公共的な立場からみて文化政策が対象として取り扱うのは、このような意味での本来の企業文化です。

フイランソロピーの形態は多様なものがありますが、典型的な方式は公益法人などのように公的に認可され一定の資格をもつ団体、あるいは地方自治体や政府への寄付であって、アメリカをはじめ高度消費社会では利潤からの支出であっても一定の限度内で企業の経費として認め、結果として減税の対象となるのが普通です。

例えば政府や自治体が租税を出資金として支出し、芸術文化振興基金を設置して、これに公益法人の資格を認めたとします。さらにこの基金に対して多数の私企業が免税を伴う寄付を行い、政府とともにパトロネイジとしての位置づけに自らを置いたとしましよう。すると、この基金の運営は芸術文化の専門家が各領域の団体から推薦されて政府や財団の理事によって任命される委員会によって行われることになります。免税措置を伴う私企業などからの寄付金は、免税措置がなければ租税として国庫へ入ったはずの「おかね」を、免税というインセンティブによって文化振興のために公益法人へと誘導したわけです。