産む人と助産者の共通言語

もちろん、会陰保護術については、産婆や助産婦が行なった技術そのものの優劣よりも、産む人自身の産後の苦痛除去を目指したものであったのだから、「産む人への配慮」の方を評価したいと思う。そこで、もし、会陰切開について、産婦が知っておくべきこととして記述するなら、「分娩監視装置で胎児心拍の状態などを把握しながらであれば、一般的には、分娩第二期の所要時間がOO分くらいなら切開なしで大丈夫」とか、「ドンとした鉄の玉がつまっているような感じで出口にカーンと熱い痛みが来れば、もうどのくらいまで赤ちゃんの頭は軟産道を下がっているだろう。その時にはこういう力を出せば、切開をしなくても乗り切れる」などという情報の方が、産婦にとってはきちんとイメージがつかめて有益である。

このような種類の情報収集には、産婦の分娩開始から終了までを一貫してつき合う助産婦の方が、適任だと思う。分娩第一期の産婦が「腰のこのあたりが、○○のように痛んで」とか、第二期では「全身に思わず力が入って排便してしまいそう」などと表現した時、できればメモ用紙を用意しておいてメモを取るなどして、記録に残した方がいい。そしてその時の産婦の状態(子宮口の開大度、陣痛間隔など)を、相手が苦痛を感じない程度で助産の側から確認しておくことも大切である。

助産者が産婦に誠意を持って接し、何でも自由に発言できる雰囲気を用意してあげれば、きっと彼女たちはお産の場でいろんな表現で、痛みや苦しみや不安を表現するだろうと思う。それらの表現を分娩の進行と組み合わせて収集していけば、最初は支離滅裂でとらえ所のないようにみえる情報の表現であっても、ある程度蓄積させて分類していくと、結局、分娩の各過程は、二、三種類のきまった表現に分類されるのではないかと、私は思っている。

こうしてできあがった「感じ方、痛み方」の「お産体感マニュアル」は、産婦と助産者の間の「共通言語」となり、助産者が産婦の、あるいはまた、産婦が自分自身の、分娩の進行状態を正確に把握するための、大きな援助となるにちがいない。さらにまた、産婦が助産者へ正確に自身の状態を伝達するための、もちろん大きな援助となるだろう。

「産む」ことを中心とした分娩方法を採用する。現在ほとんどの施設で取り入れられている水平なベッド状の分娩台で、産婦をあおむけに寝かせて行なう仰臥位産は先にも述べたように、助産者本位の視点に立った「産ませる」ための分娩姿勢である。産婦が「産む」しか、お産を完了させることはできないにもかかわらず、産ませてもらいやすい姿勢を強いられてお産をすることは相当、きつい。

そのことは、もう一〇年近くも前から指摘されているから、すでにそれを十分承知している助産者も多い。にもかかわらず、なかなか現状は、改善されない。相変わらず、あおむけに寝た姿勢でしんどい思いをしながら、産婦はお産をしている。分娩台を替えるためには経済的負担が必要だし、しかも現状のままで、助産する側はちっとも困らない。否、そのままの方が介助しやすいということが、なかなか改善されないことの最大の理由だろうと思う。この際妊婦の方が賢くなって、本当に産む人への配慮のできる助産者を、お産のパートナーとして選ぶ必要があるかもしれない。