企業中心主義との矛盾

こうした矛盾ぱ、けっして「消費者密着」といったことにのみ関わるわけではない。「大都市集中」「地方不在」型の経済発展ではなく、地域間でバランスのとれた、より分散的な日本経済を構築するという課題においても、同様の問題が発生する。なぜなら、それは、「日本株式会社」といった言葉に象徴されるような中央集権的な行政(官僚)機構と、それに結びついた大企業の管理中枢機構によって、トップダウン方式で効率的な経済運営を進めてきた従来のやり方に、大幅な変更を迫ることになるからである。

地域経済の自立的な発展を促していくためには、中央から地方への大幅な権限委譲が不可欠であり、したがって中央統制型の規制を大胆に緩和していくことが必要になるが、他方では、同時にまた「地方の利益」を尊重し、バランスのとれた地域間関係を重視して企業活動ヘー定のコントロールを加えることも必要になる。

巷間、前者の「規制緩和」の必要ばかりが強調されているが、企業は同時に、地域への貢献とか、地域への密着度を高めるといった観点から、自由な利潤追求へのそうした制約を許容せざるをえないことをも認識しなければならない。そうしたことを「非効率」として拒否していては、日本経済のバランス回復は難しい。

また、奥行きのある安定的な消費経済社会を創出するためには、現在のような「法人優位」のシステムを是正して「個人」がより尊重される社会への転換が必要である。しかし、そのためには企業の内部蓄積を最優先した従来の所得配分の在り方を変える必要があるだけでなく、企業は積極的に労働時間の短縮をすすめて「自由な時間」を個人に与え、またいわゆる会社人間ではない自立的で多様な価値観を持ちうる個人を、積極的に許容していくことが必要になる。これは、日本産業の強さの源でもあった日本的企業社会を企業自らの手で突き崩していくことにもなるが、しかしこの過程なくして日本経済は現在の混沌状態を抜け出して新たな発展段階へと移行することはできない。