巨額の資金が瞬時にして動く

巨額の資金が瞬時にして電子的速度で動く性格の信頼性に立脚した市場であり、あらゆるリスクが渦巻いているといってよい。しかもそのリスクには特定国の政府や中央銀行、国家連合や国際金融機関なりの指導・監督・チェックが働くことのない自由な、換言すれば無国籍的無政府的な世界でもある。もしひとつでもユーロ市場参加金融機関が失策を犯せば、市場全体の緊密な連環と信頼と資金受渡し機構が一挙に破砕しうる組織体である。

ヘルシュタット銀行の経験は、そのリスクが現実に発生した場合のユーロ市場の脆弱性を露呈した事件であった。しかし、当時まだユーロ市場の規模が現在のわずか10パーセントほどの三、九〇〇億ドルほどの小世界であったころの話である。現代のように三兆ドルを超えた世界にあって、もし、同様のケースが発生したらどうなっていたであろうか。その危機をわずかに予測させるケースが起きている。