少子高齢化と人口減少がデフレをもたらす

そうしたことが起きたのには、すべて共通した原因があった。破綻した国は、すべて外貨建てで借金をしていたのである。マレーシアや韓国の場合は、ドル建ての債務であったし、アイスランドの場合は、円建ての債務であった。そのため、自国の通貨が値下がりして、ドル高や円高になると、借金の金額は一気に膨らみ、支払いが困難となったのである。日本の場合、借金は円建ての国債が中心であり、外貨建ての債務の割合は小さく、そうしたリスクはない。ただ、日本は対外資産の多くをドル建てのアメリカ国債保有しているという事情がある。円高ドル安は、対外資産を目減りさせ、対外資産から対外債務を差し引いた対外純資産を減らしてしまう。ただ、その点は中国も同じであり、現在では、アメリカ国債の最大の保有者は中国となっている。

もし本当に日本の財政危機が深刻になった場合には、円安に振れるので、対外資産は円ベースで増大し、そこからの収入も増えることになり、日本経済の下支えをしてくれる。つまり、経常黒字で、莫大な対外純資産をもつ国が、経済破綻することなど、あり得ないのである。本当の危機が来るのは、もう少し先のことだろう。高度高齢化社会になって、就労人口が減少したうえに、さらに、日本が技術的な優位を失い、国際競争でも敗れ続けて大幅な貿易赤字国に転落するような事態になれば、これまで築きあげてきた対外純資産を食いつぶし始めることとなる。財政赤字は、もはや海外からの借金でしか賄えなくなり、債権国から債務国へと転落することとなる。

通貨安によって、通常なら経済は息を吹き返すが、日本国民が自信を喪失し、活力の低下が遷延すると、国際的な競争力の回復は鈍く、長い低迷を続けていくことになる。悲観的な精神状況が、就労人口の低迷以上に深刻な問題だと言える。そのときは、本当に危ないと争うことだ。そうならないためにも、今のうちに、備えをし、意識を変えていく必要があるのだ。国民のマインドに大きく影響しているもう一つの要因は、今進行中の少子高齢化や人口減少の問題がある。少子高齢化は消費を減らすだけでなく、将来予想される国民負担率の上昇から悲観的なマインドを生む。少子高齢化や人口減少は、不動産や住宅に対する需要を減らすことで、不動産価格の下落要因になると考えられている。緩やかであるにしても資産デフレは止まらず、それがデフレを助長するという可能性である。

実際、業種によっては、すでに少壬局齢化の影響が、売り上げの低下となって表れている。たとえば、私鉄では、すでに乗客数の減少が始まっており、ピーク時に比べて三割程度落ち込んでいる会社も多い。不況による出控えの影響もあるが、少子高齢化で、通勤通学の実需が減少してきていることが大きいと考えられる。学習塾などの教育産業でも、生徒数の減少による売り上げの低迷が続いている。需要が細る中で、減少する客を奪い合って価格競争をすれば、財やサービス価格の低下をもたらし、デフレが進行することになる。これに近い状況が、現実に起きているようにも見える。

確かに少子高齢化による需要や労働力の減少は、経済成長にとってマイナス要因であることは間違いない。しかし、それによって、国民が貧しくなるのとは話が違うのである。国全体としてのGDPが足踏みしたとしても、一人ひとりについて見れば、むしろ豊かになれるのである。実際、人口増加率の高い国ほど、一人当たりの所得が少なく、貧困に喘いでいる。貧困から脱出するための政策として、産児制限を行って、少子化をわざわざ進めることが行われているのである。豊かになる理由の一つは、労働人口の減少は、労働の限界生産力(労働者一人当たりの生産力)を増大させるため、賃金の上昇をもたらすからである。実際、人口減少が起きたケースでは、労働者はむしろ豊かになるのである。有名なエピソードだが、中世ヨーロッパで黒死病の流行により人口が四分の三に激減したとき、小作人の収入が大幅に増えたことが知られている。