オンライン・ショツピングは小売業を変える

ニューズ・オン・デマンドのコンセプトは毎日発行される新聞ビジネスの形態にも影響を与えずには置くまい。もしかすると、明日の新聞が前日の夜のうちに読める状況になる。従来タイプの新聞はどういう魅力を付加できるのか。これまでの大新聞は、既存の販売網への影響を懸念して、電子新聞が在来の新聞紙面と競合しないような仕組みを模索している。

しかし、技術革新の成果と著しく逆行するこうした躊躇をいつまでも見せていると、新聞界の外にいた企業がニューズ・オン・デマンドタイプの市場に進出してくる可能性もある。市場の壁が崩れ、産業が再編成の荒波にもまれている時は、これまでは劣勢だった周辺企業や全く新顔のベンチャー企業が育つチャンスである。メディアはいま太平の夢から覚めようとしている。新聞社の競合相手は必ずしも新聞社ではない。テレビ放送局の競争相手もテレビ放送局とは限らない。同業との競争に目を奪われていると、百年の計どころか十年の計さえ誤りかねない。

日本のパソコン通信サービスは、NECのPC−VAN.富士通系のニフティサーブともに九五年四月に相次いで加入者百万を記録した。そのサービスの中にオンライン・ショッピンクがある。パソコン通信の電子掲示板に商品情報を書き込んで加入会員に公示し、注文は電子メールで送ってもらう、というものだ。決済はパソコン通信の支払いに利用しているクレジットカードや銀行口座からの引き落としが利用できる。ただ、「繁栄」しているとは言い難い。カタログ雑誌のように鮮明な画像がないので、一般の商品を販売するにはまだ改善が必要だろう。つまりマルチメディアの進展が期待されている。

変わりだねは農産物だ。北海道や茨城県愛媛県の農家や農協は収穫シーズンになるとジャガイモ、トマト、キュウリ、スイカ、メロン、ナシなどの案内を出して消費者からの注文を待っている。消費者と農協、農家を直接結ぶ産地直送である。水産物掲示される。電子ネットワークを利用した新タイプなので、関係者の間では「電子産地直送」、略して「電直」と呼んでいる。まだビジネスとして採算にのるほどではない。

ここでも文字情報だけでは農産物の魅力をアピールするには十分ではない、という声が強い。鮮明な画像でみずみずしい農産物の成熟の様子を訴えたり、声で直接、農家から呼びかけて、農家と消費者との信頼感を増すことが必要だとの指摘も多い。日本語で語りかける親近感から考えて、国内農家が海外からの農産物との競争力をつけるためにも有効な手段になろう。農家、農協は「マルチメディアになれば」と、明日の技術に希望をつないでいるのである。

画像情報を得意とするインターネットを利用し始めた地域がある。「一村一品」運動で有名な大分県である。市町村の産物をインターネット用の専用画像にして蓄積し(「ホームページ」と呼んでいる)、ネットワークの利用者がいつでもこの画像を見られるようにしている。農産物の写真を提供して、注文まで受けられるようにする考えだ。県が支援する、地域のパソコンネットワークの「コアラ」がインターネットと接続し、この一村一品のホームページ化を進める運動を強力に推進しているので、大分県では「電直」が集団的に実現するかもしれない。