フロイトの立場

異常心理をめぐるさまざまな考え方のなかで、精神分析学は幼児期の人間関係を重視することで知られている。「何もかも性に結びつける」「余りに解釈をしすぎる」「公式的、ドグマ的である」などいろいろ批判も多く、またそれらの批判が当たっている面もたくさんあるが、それでも現代の臨床心理学に果たした精神分析学の貢献はだれも否定できない。

フロイトが催眠の研究から出発して無意識の世界を探り当て、精神分析学を創始したことはよく知られている。また性欲を重視した話も有名である。しかし、人間の発達に関する彼の理論(小児性欲論)は我が国では余り知られていないようである。ところが、欧米、ことにアメリカでは、ピアジェの認知の発達の理論と並んで、発達(児童)心理学を支える2本の柱の1つともいわれているくらい重要なものなのである。

フロイトの小児性欲論を簡単にいうと次のようになる。

1.人間の性本能は思春期に初めて発現するものではなく、生後まもなくから存在し、さまざまな活動の中にその満足を求めている。これをリビドーと呼び、人間の生命の原動力と考える。

2.リビドーの対象となる身体の部分は発達とともに移り変わって行く。すなわち、口唇期(満1歳頃まで)、お乳を吸う事と関連してリビドーの満足は主に口と唇のまわりに求められる。

肛門期(2、3歳)、排泄のしつけと関連し、肛門の感覚(排泄後の快感等)を楽しむ。

男根期(5、6歳まで)、子供の関心が男根に集中する時期。

潜在期(学童期)、小児性欲は一時かげをひそめ、子供の関心は知的方面に集中し、比較的感情の安定する時期。

性器期(思春期以後)、初めて性器を中心に本来の形での性欲の満足が求められる時期。

そしてこの各りの時期に充分なリビドーの満足が得られないと、偏った人格や、神経症などの異常が生まれるといっている。

たとえば、口に関連した異常(アルコールや薬物の嗜癖等)は口唇期の障害に起因する、不潔恐怖症神経症の一種で不潔さを極度に恐れ、絶えず手や物を洗ったりする)は肛門期の障害が原因、という具合である。

異常とまで行かなくても、成人後もどの時期の満足をいちばん求めているかによって人の性格を分類することもできる。

1.口唇期的性格・・・依存的、常に人を頼り、自主性がない、社交的、寂しがり屋で孤独を恐れる。こういう人は往々にして本来の口唇的要求も強く、食いしん坊、甘い物好き、食道楽、嗜癖に陥りやすい傾向などを持っている。

2.肛門期的性格・・・几帳面、ケチ、がんこ、自分の世界を人に乱されるのが大嫌い、また反対にルーズでだらしないタイプもこの中に入る。

3.男根期的性格・・・攻撃的、積極的、自己主張が強く人前に出るのを恐れない。リーダーシップを取りたがるか、または人を傷つける事を恐れないタイプである。

4.性器期的性格・・・これについてはほとんど具体的に述べられてはいないが、成熟した感情を持ち、人を愛することのできる、いわば理想の人格とされている。

フロイトのほかの学説同様、この説も発表当初は大変な反対に会った。「子供にも性欲がある」などという説は現代でもちょっと抵抗のあるものだろうが、5、60年前のウィーンの大人にとってはまさにショック以外のなにものでもなかったと思われる。

しかし、その後、生理学、心理学などの発展と、多くの臨床的観察に照らしてみれば、これはなかなか当を得た、鋭い観察だったといわざるをえないだろう。この学説も、彼のほかの学説と同じく、多くの弟子・後継者らによって受け継がれ、改善され、発展させられてきた。なかでも、新しい学問の成果と深い洞察を加え、これを発展させたのがアメリカの心理学者、エリック・エリクソンである。

精神分析学者フロイトの発言・格言・名言集【精神力動論】